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私はこれまで“いい”時計を持ったことがなく、いつか手に入れたら、それが自分の成功の証になると思うほどだった。

私はいつも腕時計をしている。腕時計がないと裸になったような気がするからだ。しかし賞金を使って今までの時計よりもっといいものを買おうと思うまでは時計についてあまり知らなかった。購入するまでの数ヵ月間、さまざまなセイコー、ティソ、フレデリック・コンスタント(私の価格帯のもの)のリンクを指定のフォルダにブックマークしておき、いろいろと見て回った。何度も何度も見返して、何度見ても気になるもの、そして何よりいちばん自分らしいと思えるものはどれかを確認した。ハミルトンにしたのはグリーンのダイヤルが目を引き、少し冒険的な感じがしたこと、そして迷彩柄が私の好きな柄だったからだ。この時計は今の自分の興味とこれから自分がどうなっていくかという新しいアイデアを融合させたものだ。ジーンズとヘンリーネックのシャツ、寒いときにはパーカーなどと合わせて普段使いできるものだが、十分にお洒落で目立つので人に注目される。そして私が最近ハマっている香水、メゾン・マルジェラのジャズクラブともよくなじむ。

 私は長いあいだ時計が好きだったが、手の届かないもの(前述のロレックスやJay-Zの歌詞のなかで出てくる時を失ったオーデマなど)や、メイシーズのガラスケースのなかに置かれたいわゆるファッションウォッチ(この言葉は詳細なリサーチを始めるまで聞いたことがなかったが、それまで私が買った時計はどれもこの分類に入る)のほかに世界があることを知らなかった。メイシーズが悪いわけではないが。

私はこれまで“いい”時計を持ったことがなく、いつか手に入れたら、それが自分の成功の証になると思うほどだった。すべての“ベスト・ウォッチ・ブランド”リストを読みあさり、複雑機構、ベゼル、クロノグラフ、ラグ、ムーブメント、パワーリザーブなど新しい用語を覚え、今まで使っていた時計を全部合わせたよりも高価な、しかし一生大切に使える時計を購入した。その過程で、私は時計というものを単に時を告げる道具やファッションアクセサリーとしてだけでなく、人間の創意工夫や職人技の産物、そして伝統を守るものとして、より高く評価するようになったのである。


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